こんにちは、バナピンです。
本記事ではフィリピン通信の大手である
グローブ・テレコム【GLO】の企業研究をしています。
- 2023年度は過去最高売上高を記録
- 2023年度配当利回りは5.8%と高利回り
- ROA・ROE共に高水準で効率的な経営
- 2021年度以降顧客数は減少傾向
- 流動比率は低く、負債比率は高く財務的にはやや難ありか?
- 短期的な成長は期待薄
- 配当目当ての投資であれば良さそう
- 長期保有であれば検討の余地あり
基本情報
企業名 | グローブ・テレコム |
ティッカー | GLO |
設立日 | 1935年1月15日 |
決算日 | 12月31日 |
セクター | サービス |
サブセクター | 電気通信 |
発行株式総数 | 144,228,604 |
浮動株数 | 31,730,293 |
浮動株率 | 22% |
Webサイト | https://www.globe.com.ph/ |
PSE | https://www.pse.com.ph/company-information-GLO/ |
PSE edge | https://edge.pse.com.ph/companyPage/stockData.do?cmpy_id=69 |
事業内容
グローブ・テレコム【GLO】は、1935年設立のフィリピン大手通信会社です。
日本でいうKDDIやNTTのような会社です。
主力は通信事業全般です。
携帯電話・家庭用ブロードバンド・企業向け回線など、通信関係全般を手掛けています。
通信事業以外にも子会社を通じて、シェアードサービスやデジタルソリューションなど
IT関係のサービスも幅広く展開しています。
近年では電動バイク事業にも参戦するなど、事業規模を拡大しています。
また、フィリピン最大規模の電子決済サービス「GCash」も提供しており、
フィリピン国民の生活を支えています。
事業地域・国
フィリピン国内を中心に、世界237の国や地域・790のパートナーと提携しています。
モバイル回線のフィリピン国内人口カバー率は99%(全通信帯)で、
ほとんどの場所での通信を実現しています。
4Gカバー率は84%、5Gカバー率は56%。
日本と比較するとまだまだ成長の余地があり状況です。
(最新の通信エリア情報はコチラ)
モバイル事業
(万人) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
モバイル顧客数 | 7,410 | 9,420 | 7,660 | 8,680 | 8,670 | 5,700 |
主力のモバイル事業ですが、2019年には9,000万人を突破するほど好調でした。
近年はSmartやDITOなど他社との競争が激化している影響で、
新規顧客獲得に苦戦している印象です。
(10億ペソ) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
モバイル収益 | 106.93 | 110.97 | 103.11 | 104.39 | 107.52 | 112.38 |
顧客数は減少傾向ですが、収益を見ると上昇傾向であることが分かります。
これは、4Gや5Gなど従来よりも高額な高速通信帯の契約割合が増えているからだと推測されます。
DITOなど低価格の通信キャリア(日本の楽天モバイル的な存在?)が勢力を拡大していて、
このまま顧客数が減少すると収益も減少に転じる危険性が高いです。
グローブ・テレコム【GLO】は多くの設備投資を行い5Gの基地局を増やしていて、
価格ではなく通信エリアや速度などのサービス面で顧客獲得を行いたい様子ですね。
まさに日本の通信業界を見ているかのようですが・・・
単なる通信事業だけでは生き残ることが困難なのは、どこの国でも同じみたいですねw
家庭用ブロードバンド / 固定電話
(万人) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
家庭用ブロードバンド | 160 | 200 | 380 | 370 | 260 | 180 |
固定電話 | 130 | 97.4 | 82.8 |
家庭用ブロードバンドはコロナ禍だった2019年・2020年に大きく顧客数を伸ばしましたが、
近年は減少傾向にあります。
グローブ・テレコム【GLO】はもともとPLDTに次いで2位のシェアですが、
モバイル事業と比べて家庭用ブロードバンドはPLDTと大きく差があります。
スマートフォンが普及し、端末の性能もパソコンと遜色ないレベルのものが安価に手に入るようになったことで家庭でインターネットを契約する人も少なくなってきています。
フィリピンは経済成長が著しいとはいえ、まだまだ貧困層が多くを占めています。
一部地域ではADSL(電話回線を使用したインターネット)が主流であるなど、
エリア拡大が追い付いていない面も見受けられます。
固定電話はスマートフォンの普及により減少していくことが予想できます。
(10億ペソ) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
家庭用ブロードバンド | 18.54 | 21.75 | 26.80 | 29.39 | 27.09 | 25.11 |
固定電話 | 2.98 | 2.67 | 2.62 | 2.28 | 1.99 | 1.59 |
収益についても顧客数と比例関係にあります。
顧客数が増えれば収益も増えていくと思われます。
GCash
「GCash」はフィリピンを代表する電子決済サービスです。
グローブ・テレコム【GLO】をはじめ、フィリピン最古のコングロマリット・アヤラ【AC】と中国最大の電子決済サービスAlipayを運営するアリババグループの3社が出資しています。
運営するのは「Mynt」でグローブ・テレコム【GLO】の子会社です。
2004年にSMS送金でサービスを開始。
2013年からはQRやモバイル決済などの新たな機能を追加。
2023年末時点では約9,400万人のフィリピン人が利用していると報告しています。
世界最大のクレジット会社VISAとの提携を発表し、Gcash VISAカードを展開するなどフィリピン国内のみならず世界各国に市場を広げる急成長ぶりを見せています。
2024年にはGCashとしてフィリピン株式市場に上場(IPO)するのでは?と噂されています。
その他事業
グローブ・テレコム【GLO】の子会社として運営している事業をいくつか紹介します。
Asticom Technology
フィリピン拠点のシェアードサービスおよびテクノロジー対応のアウトソーシング会社。
4つの子会社を通じて、人材派遣・エンジニアリングサービスを提供。
多くのフィリピン人に雇用機会を提供しています。
Brave Connective Holdings
4社を通じてアドテクノロジーやエコシステムを提供。
デジタル広告やデータ分析を活用した包括的なサービスを展開。
~4つの子会社~
AdSpark
→5,000以上のデジタルキャンペーンを展開。
DeepSea
→プライベートマーケットプレイスを介したプログラマティック広告などを展開。
Inquiro
→9,400万のプロファイルと600以上のデータポイントでのソリューションプロバイダー
M360
→SMSやチャットアプリを介したマルチチャンネルメッセージプラットフォーム
gogoro
電気自動車とバッテリー交換の会社。
gogoroモビリティシステムを開発、試験運用後に販売を開始。
今後シャアを拡大していく。
konsultaMD
オンラインでの医師の診療・クリニックでの患者サービス・医薬品の配達・在宅医療などを提供。
スーパーアプリの開発で気軽にアクセス可能に。
フィリピン人により快適な医療を提供し提案しています。
フィリピン国内の通信事業について
モバイル事業
グローブ・テレコム【GLO】の主力であるモバイル事業についてザックリ見ていきます。
フィリピンのモバイル市場で競合しているのは主に下記の3社です。
- グローブ・テレコム【GLO】
- Smart(PLDT)【TEL】
- DITO【DITO】
他にもモバイル事業を運営している企業はありますが、
ほぼほぼこの3社が市場のシェアを占めています。
Smartはフィリピン大手通信会社のPLDT【TEL】のモバイル事業部門で、完全子会社です。
グローブ・テレコム【GLO】と並ぶ2強です。
DITO【DITO】は2021年にモバイル事業に新規参入した格安ブランドです。
日本で言う楽天モバイルのような立ち位置になるのでしょうか?
今まではグローブ・テレコム【GLO】とPLDT【TEL】の2強だったことで、
なかなか価格競争が行われずに消費者の選択肢を狭めていました。
しかし、DITO【DITO】の新規参入により低価格を求める人が流れてきたことで大手2社も価格競争に参加するようになりました。
DITO【DITO】は急激にシェアを拡大してきていて、今後の成長が楽しみな企業の1つです。
こちらのグラフは大手3社の2023年度の顧客数を割合で表したものです。
(あくまで3社の顧客数のみを集計しており、フィリピン全体のシェアとは異なります。)
2強のグローブ・テレコム【GLO】とSmart(PLDT)【TEL】がほぼ同じ規模で、
明確なライバル関係にあることが分かります。
DITO【DITO】は2社と比較して9%と規模が小さいですが、
2021年にサービスを開始して2年余りで1,200万人の顧客を獲得するほどの快進撃を見せています。
上記のグラフは、グローブ・テレコム【GLO】とSmart(PLDT)【TEL】の
2018年からの顧客数の推移を比較したものです。
2018年はグローブ・テレコム【GLO】が顧客数を上回っていましたが、
年々減少しており2023年にはSmart(PLDT)【TEL】を若干ですが下回ってしまいました。
この数値だけを見ると、グローブ・テレコム【GLO】の成長に期待できるとは言い難いです。
家庭用ブロードバンド / 固定電話
家庭用ブロードバンドは主に下記の3社が市場で競合しています。
- グローブ・テレコム【GLO】
- PLDT【TEL】
- Converge ICT【CNVRG】
Converge ICT【CNVRG】はフィリピン国内で光回線をはじめとするブロードバンド運営を専門に行うフィリピンの大手企業です。
グローブ・テレコム【GLO】のシェアはそこまで大きくありません。
コロナ禍では顧客数が一時的に増加しましたが、減少傾向です。
固定電話もPLDT【TEL】が約8割のシェアを保有しているため、競争力があるとは言えません。
スマートフォンの普及により、今後大幅にシェアを拡大することも見込めません。
財務情報【2023年度決算まで】
売上・利益
(千ペソ) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
売上高 | 151,172,806 | 166,660,537 | 160,519,542 | 168,496,458 | 175,040,723 | 180,164,455 |
利益 | 18,625,943 | 22,283,957 | 18,623,045 | 23,724,403 | 34,604,049 | 24,578,010 |
売上は毎年順調に推移しています。
利益・利益率は2023年度に大幅に減少しています。
これは通信インフラに関する設備投資が増加したことと、ペソ安による為替の影響だと思われます。
最近では通信事業のみならず、人材派遣や電動バイクなど既存の通信インフラを生かした事業にも力を入れ、収益確保に取り組んでいます。
モバイル事業では新勢力にシェアを奪われる展開になっていますが、
独自のサービスや料金プランなどで新勢力に負けない付加価値を提供していく必要があります。
配当金・配当利回り
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
配当金 | 91 | 91 | 107.99 | 108 | 106 | 100 |
配当利回り | 4.9 | 4.6 | 5.4 | 3.3 | 4.8 | 5.8 |
配当金は毎年安定水準を維持しています。
配当利回りは、株価が急上昇した2021年を除き4%後半〜5%台で高利回りです。
グローブ・テレコム【GLO】は今後急成長が見込まれる成長株(グロース株)ではありません。
そのため、株価の上昇利益(キャピタルゲイン)を狙う投資家よりも安定資産としてや配当目当てで保有している投資家の方が多い印象です。
顧客確保に苦戦している状況ではありますが、配当に関しては今後も安定水準を維持すると考えられます。
キャッシュフロー
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
営業 | 57,850,529 | 74,042,219 | 65,159,998 | 65,140,503 | 62,879,122 | 80,446,880 |
投資 | -42,651,753 | -55,030,779 | -61,574,179 | -96,561,981 | -71,575,379 | -48,204,138 |
財務 | -3,435,046 | -33,257,353 | 8,489,163 | 36,061,640 | 2,203,278 | -27,558,774 |
フリー | 15,198,776 | 19,011,440 | 3,585,819 | -31,421,478 | -8,696,257 | 32,242,742 |
通信事業はその事業の性質上、
通信網の維持・管理や通信エリアの拡大・品質向上など設備投資に多くのお金が必要になります。
そのため、投資キャッシュが嵩むことは仕方ないことです。
その分を営業キャッシュで補えているので、財務的には大きな問題を抱えている印象は無いです。
しかし、フリーキャッシュ(営業キャッシュから投資キャッシュを引いた、企業が自由に使えるキャッシュ)が安定しているわけではありませんので注意が必要ですね。
EPS
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
EPS | 140.1 | 167.3 | 139.6 | 177.6 | 240.2 | 170.4 |
EPSは安定して推移していますが、2023年に前年比で大幅に減少しました。
発行株数の変化ではなく単純に利益が減少したためです。
PER・PBR
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
PER | 13.4 | 11.9 | 14.3 | 18.4 | 9.1 | 10.1 |
PBR | 3.4 | 3.3 | 3.2 | 3.8 | 2.1 | 1.6 |
PERは2021年に株価の上昇と共に18倍を超えましたが、全体的には10倍前後で推移しています。
競合他社のPLDT【TEL】も10倍付近で推移していますので、
特に割高・割安の状態には無いと判断してよいと思います。
ちなみに2024年に入り株価が約16%上昇し、PERも約12倍まで上がっています。
第1四半期の決算にもよりますが、以前よりも若干割高になっている印象です。
PBRは2~3倍付近で推移しています。
これも他社と比較して平均的な数値だと感じます。
ROA・ROE
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
ROA | 9.2 | 10.1 | 8.5 | 6.3 | 7.9 | 5.3 |
ROE | 37.8 | 40.5 | 32.9 | 25.5 | 29.0 | 20.3 |
ROAは比較的高い水準で推移しています。
PLDT【TEL】のROAが大体5%程度ですので、業界の中では優秀な数字という印象です。
ROEは年々減少傾向にありますが20%台と比較的効率的に利益を出しているようです。
2021年から自己資本が増えていることがROEが低下している理由です。
自己資本増加は内部留保(企業の貯金)によるもので、利益が増えていても配当金が増えていないため株主への還元が少なくなってるということです。
今後の通信網などの設備投資に向けた貯えであると推測されますが、
市場は良い評価をしていない印象です。
流動比率・負債比率
2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
流動比率 | 86.0 | 73.0 | 79.8 | 55.7 | 65.5 | 60.6 |
負債比率 | 309.5 | 274.5 | 310.3 | 300.8 | 264.3 | 282.4 |
流動比率は100%を下回る低水準で、一般的には自転車操業状態です。
多額な設備投資のために、常に多額の債務を抱えている状況になっています。
通信業界は全体的に負債が多くなりがちですが、
モバイルや家庭用ブロードバンドなどの通信費用は毎月支払われるため、
売上を定期的に得られることからある程度流動比率が低くても問題ありません。
ただし、通信費用の未払いが増えると財務状況が悪化するリスクは高いと言えます。
負債比率も高めで推移しています。
その分しっかりと利益を出しているので、すぐに危険な状態ではないと思われます。
PLDT【TEL】の負債比率が400%台ですので、業界の中では低い方です。
直近決算ポイント
2023年度
売上高は2022年度を3%上回り過去最高売上高を記録しました。
社会的なデジタル化により国民にデジタルライフスタイルが必要不可欠になったことで、
通信事業の収益が全体の81%→83%へと2%増加。
ますます通信事業が収益に占める割合が高くなりました。
モバイル事業での収益が全体の69%を占め、引き続き主力事業となっています。
一方、家庭用ブロードバンドはモバイル需要の増加や新規契約の減少などが影響し、
前年比7%減少する結果に。
光回線カバー率の上昇に努めるなど、顧客確保が今後の課題になっています。
5Gカバー率は首都圏・97.9%、ビサヤ島とミンダナオ島の首都圏・92.36%と順調に推移。
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